ビーガンを
ビジネスにする


少子高齢化で業績が伸び悩む飲食・食品業界において、新たな市場として注目を集める「ベジタリアン」「ビーガン」マーケット。 一方、ビーガンはビジネスにならないという声もちらほら。果たしてビーガン食はビジネスになるのか。

代表取締役 岩溪 寛司
国境なき料理団 代表 本道 佳子
取締役 野田 武志(聞き手)

日本ビーガン界において伝説となった「湯島食堂」をひらき、ビーガン世界大会では準優勝を果たした【国境なき料理団 代表・本道佳子】と、10年以上にわたりビーガンを「ビジネス」として取り組み、業界から一目置かれる存在となった【みんなのごはん・岩溪寛司】。


ビーガン界を代表する二人から、ビーガン・ビジネスで成功するためのポイントならびにビーガンビジネスが切り拓く社会の可能性についてお伺いします。

    B級グルメをビーガンで
    作ったら流行る?


    注目されるビーガンを切り口に商品やメニュー開発をやってみたいという企業・飲食店が増えています。そもそもビーガンとはどういうものなのでしょうか?何がOKで、何がNGなのでしょう?。

    「ビーガン」とは、動物由来の物を食べないライフスタイルを送っている人の事です。 いわゆる「ベジタリアン」とは違います、ベジタリアンには様々な種類のベジタリアンがいますからね。

    はい、「ベジタリアンだけど乳製品や、卵は食べる」とか、「魚、鶏肉は食べます」とか。それって肉食なんじゃないんじゃないの?って思う時がありますね。。

    ベジタリアンは境界線が曖昧なんですが、ビーガンはシンプルに「肉・魚・卵・乳製品」を食べない人です。肉はもちろん、魚、卵、チーズなどの乳製品、ハチミツ、動物性の出汁(ブイヨン、鰹節など)も食べません。

    どんなメニューや食品を作ると喜ばれますか?

    いろんなケースがあるので一概に言えませんが、意外と評判がいいのがB級グルメ的なもの。ハンバーガーとか唐揚げとかをビーガンでやると感激されますね。

    同感です。植物性の出汁や日本ならではの食材を使用したインスタント食品の開発、例えばカップラーメンみたいなものは流行ると思いますね。

    これなら海外輸出も狙えます。他にも、椎茸や佃煮の技術を活用したジャパンオンリーの植物性ハンバーグの開発なんかも面白いと思うんですよね。

    あとはお菓子などのお土産物ですね。ビーガンは友人への贈り物にもこだわるので、お土産物で困っているケースも多いです。

    へぇ〜、ビーガンと言っても女性雑誌で見るようなオシャレなものだけでなく、ファーストフード的なものやお土産など様々な場面で提案していけそうですね。

    ビーガンは引き算
    では無く足し算


    ビーガン食の開発や原材料の調達って難しいのでは?

    とっても簡単です。例えば、コロッケから肉を抜くだけでビーガンコロッケは簡単に出来ます。味気なくなると思われがちですが、野菜に対する理解や活かし方などのコツやノウハウがあればジャガイモや野菜だけでも美味しいコロッケは出来るんですよ。

    他に、和食の「酢の物」などは魚介類の代わりにワカメや海藻を使ったり お肉の代わりに豆類を使用したりしてね。

    和食はもともとビーガン食と親和性があるんですよ。切り干し大根やほうれん草の和え物、高菜炒めとかはそもそも「和のビーガン」ですから。その辺にある野菜を使ってちょっと工夫するだけでも美味しくなるんです。

    そうそう、ちょっとした工夫で美味しくなりますよね。動物性食材を抜くという引き算だけでは上手くいかないことも多い。

    動物性食材に代わる植物由来の何か加えるという足し算がポイントになってきます。

    一般的にビーガン食は「サラダだけ出てくるんじゃないか。野菜だけでは物足りないんじゃないか?」などの先入観があるので、

    まずその印象を変える為にも、僕たちは満足感のあるビーガン食を目指しています。

    野菜だけを出しておけば良いという発想では無く、ちゃんとした「主菜」となるビーガン食を考えるのが大切です。

    美味しいだけでは
    ビジネスにはならない


    開発の現場でよくある
    失敗事例を教えてください。

    ビーガンが何を求めているかというのをちゃんと理解していれば、開発で失敗する事は無いです。

    ただ、よくあるのが現場感を持って開発しないとコスト面やオペレーションで失敗するので気をつけています。

    よくあるのが、料理人だけで開発を進めてしまうケース。美味しいものは出来るのですが、原材料調達からキッチンや工場での生産オペレーションなど社員やバイトの人たちでは再現できず、結局使えないという…。ビジネスとして成立させるためには総合的な判断・調整が必要になってきます。

    その辺は私たちがもっとも強みとしているところの一つです。

    料理人の立場からも、みんなのごはんさんのような存在がいることは心強いですね。美味しいモノを作ることだけに専念できますから。

    ビーガンにしたら
    原価が安くなる事も!


    コスト面ではどうですか?高くなりそうですけど。。。

    コスト面でも過度な負担が生じないように工夫しています。弊社の開発したビーガン加工食材やレシピがあるので、それらを応用すればイニシャルコストも掛からないし、仕入れて調理するだけなのでオペレーションも単純です。

    原材料としても野菜は肉や魚よりも原価が安いし、日持ちがするので食材の在庫管理もしやすい。断然コストパフォーマンスも良くなりますよね。

    そうなんですよね。ただ、たとえビーガン食のエンドユーザー価格が少し高くなったとしても問題ありません。

    ビーガンにとって「食べる場所・物が無い」事が問題であって、他の商品より100 円高いだけでその悩みが解消されるなら、ビーガンはそちらを購入します。

    それにビーガン食の価格が少し高いくらいの方が、 ちゃんと手間をかけてくれているんだなって印象も与えられますからね。

    ほぉ〜 ビーガンにしたら原価が安くなって売価を高くできる可能性もあるんですね。

    ビーガンというと特殊なものをイメージしがちですが、思ったりよりもリスクが少なくて、それほど面倒もかからずに取り組むことができそうですね。

    ビーガンは人生100年時代にこそ必要とされる


    ビジネスとして取り組むには、やはりそこにマーケットはあるのか?というところ。
    ズバリ、ビーガンはマーケットがありますか?ビジネスになりますか?

    絶対ビジネスになります(笑)

    すでに欧米のビヨンド・ミートやインポシッブル・フーズといった企業はビーガン食の開発に取り組んでいて、ビルゲイツなど多くの投資家が出資し、既に黒字化しています。

    日本の場合はいうと、まさにこれからですね。だから、まだまだ商売下手なケースが多い。たとえば、「うちの店にビーガンが来たことはないよ」とか良く聞くんですが、それはそうですよ。そのお店で「ビーガンやってます」って手を上げていないんですから。

    現在、成田空港には毎日約少なく見積もっても3,000人前後のビーガンが海外から訪日しています。弊社の開発したビーガン機内食を大手エアラインに採用いただいていますが、その実績から計算してもそれくらいのビーガン人口が見えてきます。

    そのビーガン達はどこで食事しているかというと、都内、また周辺のごくわずかなビーガン専門店などに行っています。

    それらの店舗だけでは全てのビーガン達の需要を満たすことは出来ていないので、ビーガンの人たちへ「ビーガン対応店舗・商品」だということを伝えるだけで、必ずビーガンがやって来ます。

    もちろん、インバウンドだけでも十分なマーケットはあると思うんですが、2020 年東京オリンピック・パラリンピック以降も日本の社会構造の変化として野菜を中心とした食の時代へと必ず移行していきます。

    人生100年時代を考えた時に、健康面でも食のあり方が「肉食」ではなく「菜食中心」になっていって病院食や、介護食でもビーガン食が増え、今後さらなる市場の拡大が考えられます。

    なるほど。急増して注目されている外国人旅行客向けなど今すぐにでも取り込める需要があるのはもちろんのこと、60〜70歳でもバリバリ働くことが当たり前となる「人生100年時代の食」という観点からも、ビーガン食は一過性の流行モノではなく、社会構造の変化に適した末長く取り組めるビジネスといえそうですね。

    ビーガンは世界中の
    人達が友達になれる食事


    短い時間でしたが、現実的かつ元気が湧いてくるお話をありがとうございました。 最後に、これを読んでくださっている皆さんへメッセージをお願いします。

    15年程前、僕はラーメンや肉を食べると胃腸の調子が悪くなってました。

    ある日、お腹を壊すのが嫌で1~2 週間ほど肉食を止めてみたら お腹を壊す事が無くなったんですよ。

    それで、肉食の機会を減らしベジタリアンについて調べていると、僕の尊敬するイギリスの著名人も既にビーガンだったんです。

    海外のセレブや著名人達は、ビーガンが新しいライフスタイルだということを当時から既に取り入れていた事に感銘を受けましたね。

    ビーガンはとても新進的で、スタイリッシュだと感じた僕はビーガンになりました。

    私は、ニューヨークで料理の勉強していた時、色々な国の人達と一緒に働いていていました。

    その時に、多種多様な食文化があることを肌身で知り、気づいたんです。

    人種も宗教も越えて調和できる食事は「野菜(ビーガン)の料理ではないか?」と。

    「野菜(ビーガン)」をベース(土台)にして、卵、魚、肉などをトッピングする(付け加える)スタイルにすれば、誰もがどんな人達とも一緒に食事が出来るんです。

    ビーガン料理は世界中の人々と友達になれる料理なんですよ。

    国際会議などの前には皆でビーガン料理を食べてもらえれば、国際問題も平和的に進むのでは無いかと思っています。

    ほんと同感です。ビーガンをベースとした食事なら、誰もが一緒に食卓を囲める。誰もが取り残されない「みんなのごはん」なんです。

    最後まで読んでくださいまして、ありがとうございました。

    世界中の人たちと友達になれる、誰もが取り残されない「みんなのごはん」を一緒に作っていきましょう!!!